山 羊
岬の突端の岩の上で
ぼくたちは山羊を拾った
荒縄で首を縛り、小舟に乗せて村へ帰り
裏庭の草むらに杭を打って繋いでおいた
ぼくたちはことあるごとに、
この思いがけない幸運を
とっておきの秘密を打ち明けるように
もったいぶってこっそりと、
けれど誇らしげに語った
(噂は蛇のように村を這い回った。)
愛想いい笑顔で村人は集まった
遠慮がちに、けれど好奇の目を光らせて
無心に草を食べている山羊を取り巻いた
最初の一つは子どもたちの小石だった
ちらっと山羊が顔を上げた
ぴたりと止まって
子どもたちも村人も動かない
山羊はまた首を下ろして草を食べ初めた
石はしだいに大きくなり数を増した
傷ついて白い毛に血を滲ませながら山羊は
村人を見た
瞬間、何もしない風を装って村人は風景に
張りついた
しかたなさそうに山羊はまた草を食べた
それしか出来ないだろう、繋がれた山羊だ
ごそり・・・
その隙に村人の足が一歩前へ出て山羊に近づいた
敏感に山羊は首を上げて村人たちを見た
愛想笑いの村人たちの目は銃口だ
無数の銃口がこっちを向いている
(だるまさんがころんだ・・・。)
村人たちの心がそよいでいる
山羊にそれがはっきりと聞こえる
屠殺
毛皮
村一番の料理人
祭礼の酒宴・・・
恐怖の静寂がみなぎって草原を渡る
そよ風に吹かれるように山羊の毛が震える
小波のように恐怖が山羊の目に波立つ
山羊が思わず目ばたきをしたその一瞬に
ごそり・・・
また村人は前進した
山羊はもう目をつぶらない、つぶれない
そして、村人は動かない、動けない
(子どもの遊び歌は消えていた。)