京都・ひとり
境内はもう何も動かなかった
冬に沈んでしまったような風景
陽の光は山門の屋根に座り
時を止めている
幾人かの人が歩いている
玉砂利で音を立てないようにそっと
この永遠の静けさに遠慮しているのか
ぼくも自分の時を止め
心をいっぱいに広げて
ほんとうのぼくになって
慈照寺本堂の濡れ縁に腰掛け
境内を眺めていた
すると風鐸の下に古代の娘さんが浮かんだ
ふと遠い昔の人々のかすかな話し声もする
その娘さんを知っているのだろうか
銀閣さえ何かを語りたがっているようだ
ぼくは銀閣の話が聞きたかった
けれども陽の光は
ものの影を伸ばし始めた
確かに時は流れている
もう夕方だ
そんなふうに
いつか春は必ず来る
すると境内ではいろんなものたちが
ざわめき始めるだろう
時の流れの気配がすると
建物や庭の佇まいは
いにしえへ帰ってしまう
銀閣は言いかけた話を飲み込んで口をつぐみ
幾千年もに広げていた心を閉じてしまった
いつのまにか娘さんは消え
古代の人々の話し声はもう聞こえない
そしてほんとうのぼくも消えてしまったようだ
ページの先頭に戻る