ぼくの本(自 家 製 本 )たち

   シュンGの工房   案 内


  青春編では

 潮の匂い、松風の音、高い空とトンビと波のささやき。そしてつぶやくような小舟の音・・・。(隠岐の巻)

 友たちのさざめきの中でそっと脇に置かれていた転校生の日々・・・。(恵比寿の巻)

 青春を親しく温かく包んだ東京郊外の町。初恋の人に人の温かさを教えてもらった高校生生活・・・。(下落合・神宮外苑の巻)

 自らの生き方を模索して詩作に没頭した大学生生活の若木の丘・・・。(若木の丘の巻)

 この章ではそんなぼく自身を作り出した「アイデンティティ工房」(青春時代)を公開してみようと思います。

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【 青春・はじめに 】

        夕暮れ

 

蓮華寺山に西日が当たり
夕暮れは麓から上がってくる
ゆるやかな稜線が左右におりて
扇を開いた形の山が
ゆったりと一日を巡った
   
いっつも村の子どもらが遊んでいた
広い石畑家(いしば)の庭(かど)に
遠い潮騒が聞こえ
はるかにトンビを舞わせた空が
白く透きとおった月を浮かべると
ひとりふたりと友が帰っていく
そしてこんな夕暮れには
ぼくはひとりで取り残される
  
大きなナツメの木に寄り掛かり
ぽつんと頂上だけがまだ明るい蓮華寺山を見る
静かすぎてかすかな潮騒が聞こえている
石畑家(いしば)の離れの二階の部屋は
すっかり暗くて、誰もいない
村の家々にはもう灯が点った

ひとりランプに灯を入れる
海の向こうの西郷(さいご)の町で
働いている母はまだ帰らない


 

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