雪 柳
大学を出て遠い田舎の学校の先生になった
その二年目だっただろうか
校舎は木造の古い校舎
早春、庭の木々の花たちはまだ蕾だった
一年生の子どもたちに俳句を作らせていた
『春らしく 花びんの中に 雪やなぎ』
小柄でおとなしく可愛い女の子のノートに
そんな句が小さな文字で遠慮していた
ふと教室の片隅を見ると
忘れられたように雪柳の小枝が二本
小さな白い花をつけて活けられていた
『春らしく』のことばが心に響いて
「いいなあ~」とそっと言ってその子の頭を撫でた
可愛らしい笑顔で彼女はぼくを見上げた
地域の小・中学校の文集に応募した
その句はさりげなく「ボツ」の箱に入れられた
なんだかその女の子のような気がした
でも古びた木造の教室の片隅にちゃんと春がいた
見つけた彼女は可愛らしい心でその春を詠んだ
誰にも春は来る
忘れられたものにも春は来る
あれから五十数年 ぼくはその句を忘れない