ぼくの本(自 家 製 本 )たち

   シュンGの工房   案 内

 玄冬編では

 定年退職は人生の仕事を終えて出てきた門の樫の木の扉が音を立て閉まったようだと思いました。

 可愛らしい子どもたちに囲まれてたくさん遊んだ幼稚園の嘱託園長先生の五年間は、まさに竜宮城へ行った浦島太郎の心境でした 。

  次に市内の私立高等学校のスクールカウンセラーとして、勤めてほしいという依頼がありました。まさに「青春相談室」といったような感じでの相談が始まりました。

 幼稚園と高等学校、二つの仕事が終わるともう古希でした。毎日が日向ぼっこの日々の中で「昨日の向こう」へ思い出の旅に出ました。そこで発掘したぼくの心深くに映された一つ一つの思い出をまるで復元するように詩にしていました。それはまさに人生の余白の縁側での夢のような時間でした。

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【 玄冬・はじめに 】

   梅の古木と花 

 

公園で大きな古木に咲く梅を見た
一輪一輪は小さかったけれど清々しい姿だった
日向ぼっこのおじいちゃんの
お風呂のような愛の懐に
心を裸にしてとっぷりと浸かっている
まだ人生の汚れのない孫娘たちのようだった

人生という長旅に乾いた喉を潤すように
ぼくはその姿を心のカメラで撮影した
いつの間にか夢や希望や憧れに惑い
幾多の愛や憎しみの跡がついた心と
日々の生活の中のさまざまな出来事の海を泳ぎ疲れて
すっかり人生の汚れにまみれてしまった思いで
ぼくはこの公園に辿りついた

この梅の古木も
ぼくと同じような道を歩んだのではなないだろうか
けれどもう、喜怒哀楽の心の波を穏やかにして
明日へのすべての企みを放棄したときに
こんな風に懐を愛の温泉にできたのだろう
可愛い孫たちはそのお風呂に入っている
清々しい小さな梅の花になって咲きながら

古い公園でぼくは人生の終わりと始まりの清々しさを
おじいさんの古木と孫娘のような梅の花に見た思いだった

   

 

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