思い出の玉手箱                                               案  内   
om6
花たちに光の春をプレゼント

 
 ぼくはこのふたりの女の子のクラスの学級担任でした。二年生の二月の初めでしたでしょうか。確か土曜日だったと思います。ベランダにいる子がもうコートを着ているので、たぶん帰りのひとときだったように思います。ベランダで春の兆しのする光を存分に浴びさせて、花たちを 教室へ入れるところをたまたまカメラを持っていたぼくが一枚撮らせて貰った写真です。
 ぼくはこの写真が大好きでした。それで町の写真屋さんに言って半切のパネル張りをお願いしました。商売だから写真屋さんは二つ返事で承知してくれました。そして出来上がってぼくに手渡す時にいいました。
「なんでまた、こんな写真にお金をかけて伸ばすの? ごく普通の子じゃないの・・・。」
「ええ、ちょっと・・・。」
 ぼくはそう言いました。それはそうでしょう。でも若い子の屈託のない微笑みはどんな美少女の作り笑いよりも可愛いと思いませんか。この笑顔にカメラマンのぼくの二人への思いが写っていませんか? 写真屋さんは何を見ているのですか。
 それから、この二人は教室の草花をぼくには何も相談なく管理している二人なのです。今日は天気がいいからベランダに出してあげよう。午後みんなが帰った後、先生が草花を教室に入れるのをきっと忘れるから、可哀想だから入れておいてあげよう。そんなことを考えることが出来る二人なのです。教室の中にいる子は魚屋さんの娘さんで、ベランダにいる子は消防士の娘さんです。
 こんなに可愛い子の笑顔なのです。できたら全紙位に伸ばしたいところですが、さすがに値段が高くて手が出ませんでした。

 幸せそうな花たちを見て上げて下さい。
 やっぱり春の始まりを感じさせる一コマですよね。草花とオーバーコートですもの。