思い出の玉手箱                                               案  内   
om8
陽だまりに思い出の影遠い秋

 
 
懐かしい写真がでてきました。いつぞやはこのサイトのお客様になったかと思います。
 ぼくがまだ中学校の教師になって四年目のことでした。ぼくは今までなかった写真部をこの生徒達と立ち上げました。そうですこの記念写真は◯◯中学校の写真部一同なのです。秋の田園を主題にしての撮影会に行きました。えっ?と思うかも知れませんが、みんなはカメラを持っていません。中学生が自分のカメラなんか持てる 時代ではありませんでした。だから、カメラはぼく(先生)のもの一台でみんなで自分のアングルを見つけてひとり10枚と決めて撮影したものです。なんとも長閑なクラブ活動でした。
 この写真に向かって左から二番目の小柄な少年が写真部の部長さんでした。赤いセーターの三年生(後から入って来た)とダンスの真似をしている一年生のしっかりした男の子でした。それから一番左の黒いスカートの女の子が写真部専属のモデルさんでした。可愛らしい美人さんでした。

 モデルさんの彼女が四十歳を過ぎた頃、同窓会があって再会しました。その懐かしさにぼくたちは昔の恋人に出会ったような思いになったことを覚えています。その折のことを詩に書きました。ここで紹介しましょう。

    同窓会

 

 

いとおしく手を握り
じっと握り合い
確かに一緒にいたことを確かめ合う
   
恋慕ではなく、情愛ではなく
求め合う思いではなく
ひたむきに引き合う感情ではなく・・・
幼すぎる夢と
幼すぎる志が
織りなしていた青春を
確かに共有していたことの証しを握り合い
握った手は離れがたく
ずっとずっと握り合い
離れてもなお指を求め
指を結び合いながら
ぼくたちは遥かな過去へ旅立っていた
そして時間の中に沈んだまま
過去から帰ってしまう名残り惜しさに
指を離すことをためらっていた
   
遥かな夕暮れ
遠い記憶の
暮れ残る光のかすかさに
おぼろに頬笑みが浮かぶ
丸くて柔らかな肩の温もり
恥じらいの向うに
憧れと明日が広がっていた
あれはあれはたしかに・・・・・

   

そう
ぼくたちは
あの夕暮れの光の中にいた

 


若い教師と
セーラー服の生徒の
新鮮な昨日と今日と明日の中を
泳いでいた
むせるように溢れた青春の
渋すぎるほどに青い果実の
ほとばしる果汁の中を
泳いでいた
泳ぎ疲れて
夕暮れの中で肩を並べて
沈む夕日を見るように
未来を遥かに眺めていた
   
かつてぼくたちが眺めていたあの未来は
今、ぼくたちが見つめ合っている
「今日」なのだ
握り合っていた手は
穏やかにぬくもり
互いの人生の歴史を伝え合っていた
ぼくたちのまわりでは
たくさんの同窓の者たちが
懐かしさにむせて
目を細めて遥かな過去を眺めていた
確かにそこにいた痕跡を探って
さざなみのように談笑が続いていた
 
ぼくたちは
我に返るように過去から戻ってきて
握っていた指をそっと離すと
突然に溢れ出す懐かしさに
溺れたまま
じっと目を見つめ合い
何も言えないのであった