思い出の玉手箱                                               案  内   
om14

          その一日歩き疲れてパリの秋
                             ひとひ

 1981年(昭和56年)といえばぼくは40才でしょうか。その年の海外教育事情視察団・千葉県第121団の一員として、イギリス・西ドイツ・フランスへ行きました。ま、文部省が企画した出張ってところでしょうが、旅費の半分は自分持ち・・・。こんなことって一生に一度かなと思って行ったんですよ。この写真はフランスのパリ、凱旋門の屋上でのことです。ちょうど丸一日が観光に当てられた日で、朝から目一杯歩かされました。シャンゼリゼのムーランルージュという建物の前から、一気にブローニュの森まで歩かされ、帰りに凱旋門を訪れたのでした。疲れたのなんのって・・・。ふうっと一息ついた写真です。
 後ろに見えているのは東京タワーではありません。あれはパリのエッフェル塔なのです。ホント・・・

 パリの話
           (フランス パリ)  

パリを歩いた
悪名高い日本人観光客の
ひとりになって颯爽と
  
シャンゼリゼ通りはな
歩道は全部大理石の石畳だったぜ
歩道と車道の間には
宝石のような花が咲いて
秋の光に輝いていたぜ
俺はその通りをさっそうと
この上履きで歩いたんだ
シャンゼリゼ通りは泥靴は似合わない
もったいなくて上履きなんだ
   
モンマルトルの丘って知ってるか
頂上には画家が集まってて
みんなで勝手な絵を描いてるんだけど
上手いんだよ
赤い夕日に帆を染めて
大海原を航海しているヨットを写生したりな
サクレクールってお寺があって
みんなの幸せを拝んでやったからな
この丘にはいっぱい階段があって
パリジェンヌってのが昇ってくる
美人なんだ
おれ ふらふらっとしたぜ
   
凱旋門てあんだろう?
上は二階になっててな
トイレがあんだけど有料だぜ
お金を払って小便をするとよく出るぜ
屋上からはパリの町が放射状に見える
なんかなあ 石の家の町並みって感じで
おりゃあ 八街の方が好きだな
パリなんかどうってことないよ

   

    

 

 

で、そっから坂を上ると
ブローニュの森ってのに出るんだ
汚ったねえ自然公園さ
まだ昭和の森の方がはるかにきれいだ
大通りを日産のフェアレディの赤いのが
ぶるるるるって突っ走ってさ
外国の連中がみんな振り向くんだ・・・
   
ぼくは教師なのに
授業なんか忘れて延々としゃべる
中学生の子どもたちは目を丸くして聴いている
ずっと後ろでひとりだけ可愛い女の子が
ニコニコ笑っている
んんんんん・・・?
ぼくはしゃべり続けながら何気なく傍へ行った
彼女はこっそりとノートに書いてくれた
「わたしも夏休みにパリに行ってたの」
思わず唇に人さし指を当てた
彼女はいっぱいうなずいて
「大丈夫。」
とノートに書いてくれた
  
ああ~
このときほどぼくは
もう二度と嘘はつかないようにしようと
決心したことはなかった
彼女には心から感謝をしている

 

 * 八街・・・・・千葉県八街市 
 * 昭和の森・・・千葉県千葉市・自然公園