思い出の玉手箱                                               案  内   
om17

            青春に別れを告げて秋の道

 
 大学三年生か四年生の秋のことでした。我が家の隣の中学生の時の同級生の幼馴染の友人とふたり、秋の陣場山高原のハイキングに行きました。 中学校の時に父に買ってもらったカメラが気に入らなくて、いつのまにか使わなくなっていました。その頃は友人がアサヒペンタックスという素敵なカメラを持っていて、それで写してもらった写真です。今からおよそ六十年も前に写した写真ですがぼくとしてはとても気に入っている写真です。

 アルバイトばかりで何も残っていない青春、失恋ばかりで恋人もいない青春。学校の成績もずっと悪くて卒業後の就職への道も霧の中・・・。何にもない虚しい青春に別れを告げなければならない思いで悲しかった記憶があります。酒も飲み、タバコも吸い、ふらふらと渋谷の街を歩き、「恋文横丁」のまっただ中の茶店に一日中たむろしていたあの頃。場末のパチンコ店と立ち飲み酒屋が記憶にあります。
 授業をサボり、一日中パチンコ店で球を弾いてアルバイトで得た小遣いを使い果たしてポケットに五十円。パチンコ店の隣の立ち飲み酒場で十円の貝の串刺しと一杯四十円のコップ酒ですってんてん。遠くにあの子(今月の詩・高校一年生の時の女の子の友達)が行っているはずの教会の鐘が聞こえて寂しくなり、ひとりぽつりぽつりと一駅歩いて恵比寿駅近くの我が家へ帰るとすっかり暗くなっていて、父や母に怒鳴られて三畳の間に閉じこもる・・・。あの青春からの下り坂をぼくは忘れない。

「さてっ・・・と。」
 一服を終えて陣場山から長い下り道を降りるように、青春の坂道を降りてきました。ぼくの人生に一回だけの「青春」に別れを告げて・・・。これはその記念写真です。