確かに私が忘れたものは
異国の町で生きてくための
沈んだ夢を救う網
冷たい視線を跳ね返す
愛する友とお揃いの
「頑張ろうね」の麦わら帽子
ずいぶん探してみたのです
人にも尋ねてみましたが
どこにもそれはありません
遠い遠い引き潮の
おぼろな記憶の水平線の
はるかかなたに消えてった
私が住んでいた証し
私が歩いた野の小道
帰ってきてみたふるさとは
貝殻もない渚です
流木もない渚です
迷子になった私です
置き去りになった私です
浜でかわいた人魚です
悲しくて悲しくて
母を探している子のように
砂丘を目指して一目散に
駈けて上ってみましたが
そこには寒い空ばかり
そこには寒い海ばかり
もうふるさとも異国です
そして異国も異国です
どこへ行っても白い町
色彩のない白い町・・・
私は旅の途中です
沈んだことばをかき混ぜて
沈んだことばを飲みました
沈んだことばはちくちくと
なんだか心を刺しました
沈んだことばはきみの青春
置きどころないまなざしと
揺曳とした躊躇いと
悔恨ばかりの吐息です
沈んだことばをそのままに
何も言わずに飲みました
ぼくも旅の途中です
旅の途中の再会の
束の間にながれたやさしさを
古い古い恋唄が
温めてくれておりました
時は静かに過ぎました
茶店「憩」のテーブルで
冷えてしまった珈琲は
心惹かれる苦さです