朗読詩集「花の少女たちⅡ」                     詩の道標    案内

駅前喫茶店・再会



 
ひさしぶりに東京から里帰りをした娘さん
中学校の時の教え子さんに偶然に出会いました
そして その娘さんが東京へいく電車を待つあいだに
喫茶店でコーヒーを飲みました

遥かな旅の香りする
パステルカラーの面影は
カップに揺れておりました
静かに笑っておりました
また会うことが出来たから
きみの話を聞きましょう
春の茶店のテーブルに
きみの話が渡ります
けれども苦い珈琲に
ほとりほとりと落ちてきて
きみの言葉は沈みます

旅立つ朝の一歩には
決意も夢もあったのに
ただ白いだけの町角の
見知らぬ人の往来の
ざわめいている沈黙に
決意は気後れするばかり
夢は沈んで行きました
 
何かを忘れてきたようで
取りに帰ってきたのです
けれども私の忘れたものは
初恋? 
それとも麦わら帽子?
潮騒の音 風の音?
自分に問うて見ましたが
自分は首を振るばかり
    
素敵な人になりたくて
青春の書を読みふけり
丘に上って海を見て
それからピアノを弾きつづけ
苦悩ばかりの詩を綴り
歌ってみたりしましたが
何かに遅れてしまったようで
誰かに置いていかれたようで
ただ追いつきたい一心で
旅の支度をしてました

忘れたものを取りに来て
忘れたものがわからない
みんなで歌った花いちもんめ
私は何度も貰われて・・・
そんな思い出取りに来た?
優しい時間を取りに来た?
そんなはずはないのです

 

 


modoru



確かに私が忘れたものは
異国の町で生きてくための
沈んだ夢を救う網
冷たい視線を跳ね返す
愛する友とお揃いの
「頑張ろうね」の麦わら帽子
ずいぶん探してみたのです
人にも尋ねてみましたが
どこにもそれはありません

遠い遠い引き潮の
おぼろな記憶の水平線の
はるかかなたに消えてった
私が住んでいた証し
私が歩いた野の小道
帰ってきてみたふるさとは
貝殻もない渚です
流木もない渚です
迷子になった私です
置き去りになった私です
浜でかわいた人魚です

悲しくて悲しくて
母を探している子のように
砂丘を目指して一目散に
駈けて上ってみましたが
そこには寒い空ばかり
そこには寒い海ばかり
もうふるさとも異国です
そして異国も異国です
どこへ行っても白い町
色彩のない白い町・・・
私は旅の途中です

沈んだことばをかき混ぜて
沈んだことばを飲みました
沈んだことばはちくちくと
なんだか心を刺しました
沈んだことばはきみの青春
置きどころないまなざしと
揺曳とした躊躇いと
悔恨ばかりの吐息です
沈んだことばをそのままに
何も言わずに飲みました

ぼくも旅の途中です
旅の途中の再会の
束の間にながれたやさしさを
古い古い恋唄が
温めてくれておりました

時は静かに過ぎました
茶店「憩」のテーブルで
冷えてしまった珈琲は
心惹かれる苦さです