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  随 想     書 斎      案 内


  ぼくの心に水面があるなら

 そこに映って微かにさざなみをたてたことを

 消えないうちに「文章」」にしておこう。

     時が移り、そのさざなみが消えてしまっても

     心の奥にもうそれは印刷されているように〜。


みちしるべ
      波の絵    あだ名        恋唄   プリンター騒動記   歌三昧


           「心を浮かべて流れる清流、それはメロディー」~歌に思う~

 

 著名なポピュラー歌手の森口博子さんが歌っていらっしゃる「みかんの花咲く丘」を聞いた時は思わず心が痺れるような感動を覚えました。いろんな方が歌っていらっしゃるのになぜか森口博子さんの歌が心に染み込むのです。温かい懐に抱っこされてお母さんの歌う歌をきいているような気持ちになったのです。自分でも信じられないのですが、七十才を過ぎている爺さんのぼくが涙を流していたのです。
 同じようなもう一つの歌があります。それは岩崎宏美さんが歌ってくださっている「冬の夜」です。やっぱり、お母さんの歌に聞こえるのです。ここで恥ずかしいお断りをしておきたいのですが、ぼくの母を思い出したのではありません。なんだか自分で胸に描いている想像の母の歌に思えたのです。私の母は子どもの私に聞かせてくれる歌を歌ってくれた記憶はありません。歌は好きでしたが流行歌や民謡を自分の好みで歌うだけでした。
 なのに、森口さんの「みかんの花咲く丘」。岩崎さんの「冬の夜」はなぜか母の懐の温かさがぼくの心に入ってくるのです。
 話は違いますが、ぼくはテレビで「街角ピアノ」という番組が好きでよく見ます。なぜこんなに好きなのだろう。プロの方のお客様に聞かせるためのコンサートでの歌や演奏は、それなりに素晴らしく好きな曲は終わりまで聞きますが、ほとんどは途中でなんとなく別のことに関心が移ってしまいます。でもこの「街角ピアノ」で演奏する人たちは、お客様に聞かせるためではなく自分の心の花を咲かせようとしているように思います。それがぼくに感動を起こさせるのかなと思いました。
 
格好良く自分を表現するためにピアノを弾いているのではなく、自分が弾いているいる、その音楽に感動し感謝しながら引いているように思えるのです。そう言えば森口さんも、岩崎さんも「どうだ上手だろう」と聞くものに自慢するように歌っているのではないのです。自分が歌っている歌そのものに、感謝しながら自分の心が揺れているような「歌」なのです。・・・わかりますか?

 今月は「今、ぼくが心を耳にして感動させていただいている歌」のいくつかを紹介したいと思います。もしかしたらかなり偏った好みかもしれませんが、一度聞いてみてほしいなと思うものたちです。

「銀さん(ネットで出会いました)」
 彼女の歌にはぼくたち(聞く人たち)のために、心を込めて届けてくださっている味わいがあります。
・ゴンドラの唄  ・月の砂漠   ・星めぐりの歌   ・浜辺の歌

趣里さん(NHK朝ドラより)」
 元気のいい歌、そして何より誠実な気持ちを感じさせる歌い方で好きです。ぼくは昔の笠置しず子さんを知っていますが、彼女を凌ぐほどの誠実さを感じました。
・アイレ可愛や   ・ラッパと娘   ・買い物ブギ   ・センチメンタルダイナ  など

「竹野留里さん(民謡歌手から)」
 元気のいい可愛らしいお嬢さんですが、その元気さがはち切れそうなほどに表現されています。
・津軽あいや節   ・おどりゃんせ   ・紅   ・童神   ・裸の心

「メリッサ・クニヨシさん(ブラジルの少女時代)」
 可愛い小学生の女の子でとても歌が上手です。でも、ぼくは彼女のまったく汚れていない清潔な雰囲気がとても心地よくて何度でも聞いています。十九才でお亡くなりになりました。ご冥福を祈ります。
・涙そうそう   ・瀬戸の花嫁   ・ハナミズキ

「山下ヤスミンさん(やはりブラジルの娘さんのようです)」
 どういうわけか歌が大人びていますが、しずかに大人の感情を誇張しないで表現しているようで、歌い方の上品さに大きな共感を覚えています。
・愛は花、君はその種   ・昭和最後の秋のこと   ・白い雪

「おおたか静流さん」 
 まさに自分の歌の世界を持っている人だと思います。人のずっとずっと奥にある心をやさしく振るわせてくださるような、可能なら一緒にお酒を飲んで浜辺で波の音を聞きながら、人生の打ち明け話をしたいなと思いながらいつも聞きます。39才でお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします。
・りんごの木の下で   ・悲しくてやりきれない   ・琵琶湖周航の歌   ・アロハオエ


      古い歌を聴きながら

 

           
その日 ぼくは古い歌を聴きながら
涙を流していました
心によみがえってくるものが
ぐっしょり濡れているのです

   ひとりぼっちを覚えた隠岐の空と海が
   ぼくにはやさしかった小学校のお姉さん先生が
   新宿郊外の高校のお姉さんだった同級生が
   サッカーグランドを走っていたぼくと男の子たちが
   佐倉市の中学校のベランダの夕日が
   それぞれのメロディの中で濡れているのです

古い歌よ 
きみたちは不思議だな
あの頃 あの空 あの海 あの巷に流れて
誰もが口ずさむ
みんなの流行り歌だったのに
ずっとずっと時が過ぎて 
きみがどこからか流れてくると
どうして 
ぼくだけがこんなに泣かされるのだろう
きみは
ぼくだけのメロディじゃなかったはずなのに

 

 

   この歌が聞こえてくると ぼくはいつも思い出します
   「♪ 知らない町を歩いてみたい どこか遠くへ行きたい♪」
   実演の歌手のしみじみとしたこの歌をあの子とぼくは
   黙って聴きながら見ていました
   今日だけでしかないデートの日でした
   しみじみと黙したままで歌を聴きながら見ていました
   夜の喫茶店の窓ガラスに映ったぼくたちの頬を
   雨つぶが涙のように流れるのを・・・

あのときの歌よ
もう懐メロになってしまった歌よ 
今 きみはぼくに
そっとぼくだけの思い出を浮かべて 
風のように流れてくるんだね
すると いつも
ぼくは我知らず涙をこぼしてしまうのです

 遠い昔の歌を聞くと不思議にぼくはその歌にまつわる思い出を浮かべることがあります。もちろん、そうでない歌もありますが、例えば童謡の「トベトベトンビ 空高く、鳴け鳴けトンビ 青空に♪」の歌を聞くと小学校三年生の時の優しかったお姉さん先生を思い出します。歌はいつのまにかぼくだけの思い出を一緒にして流れてくるような錯覚にとらわれることがあります。そんな力を持っているんですよね。歌っていいなあ〜と思います。

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