待てよ? もしかしたらこのワインは
ぼくの胸の中で醗酵し醸成した
ぼくの思い出ではないだろうか
きれいに澄んだワインカラーの思い出は
クリスタルのグラスの中で懐かしさに香っているが
だからこそ素敵な出会いであれば
新しい人にも 再会の人にも
似合うような気がする
そうだ!
このワインを「思い出ワイン」と呼ぼう
素敵な出会いの人をこの「思い出ワイン」でもてなそう
そんな気持ちがぼくの心の中に湧いてきた
もしかしたらその人もきっと
素敵な「思い出ワイン」を
大事に持っているかもしれない
一枚の名刺を差し出すのではなく
長い自己紹介をするのでもなく
身の上話をするのでもなく
あれからの消息を説明するのでもなく
この一杯の「思い出ワイン」は
そっと互いに注ぎ合い
チンとグラスを合わせればいい
グラスの中で思い出が揺れ合うだけでいい
どこかの木もれ日レストランの
静かな片隅のテーブルに向かい合って座り
きれいなクリスタルのグラスに
澄んだワインカラーで揺れている
互いの「思い出ワイン」にそっと微笑みを浮かべて
まなざしを懐かしく交換できれば
それでいいのではないか
ぼくの詩集をそっと向きを変えて
その人に差し出すように・・・